スポンサーリンク

権利関係 民法 総則

制限行為能力者制度

制限行為能力者制度

 法律行為(契約等)を単独で完全に有効に行うことが出来る能力のことを行為能力と言いますが、法律行為を単独で行うにはある程度の判断能力が必要になります。

例えば、未だ精神的に成熟していない未成年者や精神上の疾患により判断力が低下している者を通常の行為能力者と同様に扱ってしまうと、その者にとって不利益な結果を招くことも少なくありません。

そこで、ある程度の判断能力を備えていない者の行為能力を制限し、保護しようというのが制限行為能力者制度です。行為能力を制限された者を制限行為能力者とよび、制限行為能力者がした法律行為は一定の要件のもと取消すことが出来るとして制限行為能力者の保護を図っています。

制限行為能力者制度と意思能力

意思能力が無い者がした法律行為は無効ですが、意思能力の有無は意思表示ごと法律行為ごとに個別的に判断されるため、意思表示時や法律行為時の意思能力の有無の証明をする必要があり、容易ではありません。

しかし、制限行為能力者制度では法律によって画一的・一律に制限行為能力者であると定めるため、意思表示ごと法律行為ごとに判断する必要がなく、意思能力の有無を証明するよりも容易であるというメリットがあります。

事例

17才のA君が、両親に内緒でパソコンショップBからパソコンを買う売買契約をした。

上記事例で、A君とパソコンショップBとの間の売買契約について、意思能力が無かった事を理由として無効とするにはA君とパソコンショップBとの間の売買契約時にA君に意思能力が無かった事を証明しなくてはいけませんが、制限行為能力者であることを理由として取消すのならA君が17才の未成年者であることを証明すればいいだけなので意思能力が無かった事を証明するよりも容易です。

制限行為能力者は4種類に分類されますが、未成年者はその内の一つです。

制限行為能力者の種類

制限行為能力者は、①未成年者、②成年被後見人、③被保佐人、④被補助人の4種類に分類されます。

未成年者

未成年者とは、成年に達していない者の事をいいます。

成年に達していない者でも、婚姻をしている者は成年者として扱われます(成年擬制)。また、一度成年擬制が生じると、後に離婚をしたとしても成年擬制の効果が消滅することはなく、成年者として扱われ続けます。

未成年者の法律行為

未成年者の法律行為は原則として、法定代理人(未成年者の法定代理人は親権者または未成年後見人)が代理して行うか、法定代理人の同意を得て未成年者自身が行う必要があり、未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は取消す事が出来ます。ただし、未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為であっても、下記のものは取消す事が出来ません。

(1)単に権利を得、義務を免れる行為

 単に権利を得、義務を免れる行為とは、「債務の免除を受ける(借金の免除)」や「負担のない贈与を受ける」等のことです。この様なものは未成年者に損害を及ぼす恐れがないため法定代理人の同意を得ずに未成年者が単独で行うことが出来ます。

(2)処分を許された財産の処分行為

 処分を許された財産の処分行為とは、「お小遣い」や「旅費」「学費」等のことです。

(3)法定代理人が許可した営業に関する行為

法定代理人が許可した営業に関しては、その営業の範囲内においては未成年者であっても成年者と同様に扱われるため、未成年者が単独で行うことが出来ます。

未成年者を成年者と同様に扱うのは、許可された営業の範囲内においてであり、範囲外の行為については法定代理人の同意を得て行う必要があります。

成年被後見人

成年被後見人とは、精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判受けた者のことをいいます。

成年被後見人となるのは、①事理弁識能力を欠く常況にあり、更に②家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者なので、事理弁識能力を欠く常況にあるだけでは成年被後見人ではありません。

「事理弁識能力を欠く常況にある」というのは、通常時に事理弁識能力を欠いている状態のことで、通常時に事理弁識能力を欠いているのなら、一時的に事理弁識能力を回復していたとしても欠く常況にあると言えます。

後見開始の審判の申立権者

後見開始の審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官が申し立てる事が出来ます。

成年被後見人の法律行為と保護者

家庭裁判所が後見開始の審判をする際、成年被後見人の保護者として成年後見人を選任します。そして、成年被後見人の法律行為は原則として成年後見人が代理して行う必要があり、成年被後見人自身がした法律行為は原則として取消すことが出来ます。

ただし、日用品の購入やその他日常生活に関する法律行為は成年被後見人自身が単独で行う事ができ、取消すことが出来ません。

成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、法定代理人である成年後見人が同意を与えたとしても、その同意通りに行動する事が期待できません。そのため、成年後見人には同意権は無く、成年被後見人の法律行為は原則として成年後見人が代理して行う事になります。しかし、例外として日用品の購入やその他日常生活に関する法律行為は成年被後見人が単独で有効に行うことが出来ます。

被保佐人

被保佐人とは、精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分な者で家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた者の事をいいます。

「精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分」というのは、成年被後見人の「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」よりも障害の程度が軽い状態です。

保佐開始の審判の申立権者

保佐開始の審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官が申し立てる事が出来ます。

被保佐人の行為と保護者

家庭裁判所が保佐開始の審判をする際、被保佐人の保護者として保佐人を選任します。

被保佐人は成年被後見人に比べると事理弁識能力が高いので、全ての行為を保佐人に代理してもらったり同意を得てする必要はなく、一定の重要な行為をする場合に保佐人の同意または家庭裁判所の許可が必要になり、保佐人の同意または家庭裁判所の許可を要する行為をそれらを得ずにした場合には、その行為を取消すことが出来ます。

保佐人の同意を要する行為とその追加

保佐人の同意を要する行為として、下記のものが定められています。

(1)元本を領収し、又は利用すること。

(2)借財又は保証をすること。

(3)不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。

(4)訴訟行為をすること。

(5)贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法 (平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

(6)相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。

(7)贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。

(8)新築、改築、増築又は大修繕をすること。

(9)第六百二条に定める期間(山林10年、宅地5年、建物3年)を超える賃貸借をすること。

(10)前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

上記の行為は保佐人の同意を得てする必要があり、保佐人の同意や家庭裁判所の許可を得ずにした場合、取消すことが出来ます。

また、上記の行為以外であっても、家庭裁判所は一定の者からの請求により保佐人の同意を要する行為を追加する事ができます。

保佐人の同意に代わる家庭裁判所の許可

保佐人の同意を要する行為について、被保佐人の利益を害するおそれが無いにも関わらず保佐人が同意を与えない場合、家庭裁判所は被保佐人からの請求により保佐人の同意に代わる許可を与えることが出来ます。

保佐人への代理権の付与

保佐人は被保佐人の行為について当然に代理権を有するわけではありませんが、一定の者からの請求により、家庭裁判所は被保佐人に関する特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する事ができます。

家庭裁判所が付与するのは「特定の法律行為」についての代理権であり、法律行為全般についての代理権ではありません。特定の法律行為とは、例えば「ある建物の売却についての代理権」のようなものです。

被補助人

被補助人とは、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な者で家庭裁判所から補助開始の審判を受けた者のことをいいます。

補助開始の審判の申立権者

補助開始の審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官が申し立てることが出来ますが、本人以外の申立により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければいけません。

補助開始の審判は「精神上の障害により事理弁識能力が不十分」な者に対してされますが、「事理弁識能力が不十分」というのは、成年被後見人の「事理弁識能力を欠く常況」や被保佐人の「事理弁識能力が著しく不十分」に比べると精神上の障害の程度は軽く、事理弁識能力が高い状態です。なので、本人の意思を尊重する為に、補助開始の審判には本人の同意が必要とされています。

被補助人の保護者

家庭裁判所が補助開始の審判をする際に、被補助人の保護者として補助人を選任します。

補助人の権限

補助人は当然に同意権や代理権を有しているわけではなく、補助開始の審判と共にされる「補助人の同意を要する旨の審判」や「補助人に代理権を付与する旨の審判」によって同意権や代理権を取得します。

被補助人の行為

家庭裁判所は一定の者からの請求により、被補助人が特定の法律行為をするには補助人の同意を要する旨の審判(民法13条:保佐人の同意を要する行為の一部に限る)をすることができます。

「補助人の同意を要する旨の審判」も補助開始の審判と同様に、本人以外の者からの請求によりする場合には、本人の同意が無ければいけません。

この審判で定められた補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれが無いにも関わらず同意を与えない場合には、家庭裁判所は補助人の同意に代わる許可を与える事ができます。

そして、補助人の同意やそれに代わる家庭裁判所に許可を得ずにした行為は取消すことが出来ます。

補助人への代理権の付与

補助人は当然に代理権を有しているわけではありませんが、一定の者からの請求により家庭裁判所は特定の法律行為について補助人に代理権を付与する審判をすることができます。

制限行為能力者がした行為の効力

制限行為能力者が、保護者の同意や家庭裁判所の許可を得なければならない法律行為を、それらを得ずにした場合、その行為は取消すことが出来ます。

取消すことが出来るというのは、取消しがあるまでは有効であるということで、制限行為能力者が保護者の同意や家庭裁判所の許可を得ずに単独で行った行為であっても取り消しがあるまでは有効なものとして存在しているということです。そもそも法律行為の効力が生じていない「無効」とはこの点が大きく異なります。

取消権者

制限行為能力者がした取消す事が出来る行為を取消すことが出来る者(取消権者)は、制限行為能力者本人又は法定代理人、制限行為能力者の承継人(相続等)若しくは制限行為能力者に同意をすることが出来る者です。

取り消しの効果

法律行為が取り消されると、その法律行為は最初から無効であったものとみなされます。

最初から無効であったものとみなされるため、当事者は双方とも相手方から受け取ったものを返還しなければなりませんが、制限行為能力者側は現に利益を受けている限度(現存利益)で返還すれば良いとされています。

用語解説

現存利益とは、利益が形を変えて残っている場合の、その利益の事をいいます。例えば受け取った利益で生活費や学費等を支払った場合には、受け取った利益が形を変えて残っているので現存利益があるといえ、遊興費等に費やした場合には現存利益は無いとされます。

事例

未成年者AとBとの間で、A所有のパソコンをBに売却する売買契約が成立した。AはBから受け取った代金20万円を消費した後にAB間の売買契約を取り消した。

上記事例では、AがBから受け取った代金20万円を何に使ったのかによってAがBに対して20万円を返還する必要があるのかどうかが決まります。

Aが20万円を大学の入学金に充てていたり、生活費に充てていたのなら現存利益があるとされ、20万円をBに返還する必要があります。対して、Aが20万円をギャンブル等に費やしていた場合には現存利益は無いとされ、AはBに20万円を返還しなくても良いとされます。

とても理不尽だと感じると思いますが、そういうものだと割り切りましょう。

行為能力の制限を理由とする取消と第三者

行為能力の制限を理由としてする取消は、善意の第三者に対しても対抗する事ができます。

用語解説

第三者とは、特定の法律行為につき当事者ではない者のことをいいます。例えばAとBで売買契約をした場合、その売買契約に関係のないCのことなどを第三者といいます。

用語解説

善意とは「ある事実について知らない」ことをいい、悪意とは「ある事実について知っていること」をいいます。

用語解説

対抗とは、主張と同じ意味で使われます。対抗することができないというのは「主張することができない」と同じ意味であり、対抗することができるとは「主張することが出来る」と同じ意味です。

事例

未成年者A所有の土地をBに売却した。その後、BはCに対して当該土地を売却した。更にその後、Aが行為能力の制限を理由にAB間の売買契約を取り消した。

上記事例で、CがAが制限行為能力者であることを知らなかった(善意の第三者)としてもAはCに対して土地の返還を請求することができます。

取消が出来る行為の追認

取消が出来る法律行為であっても、追認がされると法律行為が有効なものであると確定し、以後は取消すことが出来なくなります。

用語解説

追認とは、取消が出来る法律行為を完全に有効なものとするための意思表示。

追認の要件

(1)制限行為能力者本人が追認をする場合

制限行為能力者が追認をするには、行為能力が回復している必要があり、行為能力が回復してない間にした追認は効力を生じません。

(2)保護者がする追認

法定代理人、保佐人、補助人はいつでも追認をする事が出来ます。

(3)制限行為能力者が同意を得てする追認

成年被後見人を除く制限行為能力者は、法定代理人、保佐人、補助人の同意を得て追認をする事ができます。

住居用不動産の処分についての許可

成年後見人、保佐人、補助人が制限行為能力者の住居用の建物や敷地について売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定、その他これらに準ずる処分をするには家庭裁判所の許可を得なければならず、許可を得ずに行った場合は、その契約は無効です。

注意

取消が出来るのではなく、無効だという点に注意しましょう。

制限行為能力者の相手方の保護

制限行為能力者がした取消す事ができる行為は、取消があるまでは有効で、取消があるとは初めから無効であったとみなされます。

この様な制度で制限行為能力者を保護する一方で、制限行為能力者の相手方はとても不安定な地位に立たされてしまいます。

事例

未成年者Aは親権者の同意を得ずにBへ自己所有のパソコンを売却する契約をした。

上記事例では、未成年者Aや、その親権者から取消がされなければAB間の売買契約は有効ですが、取消があると最初から無効であったとみなされてしまうため、Aの相手方Bはとても不安定な地位に立たされてしまっています。そこで、制限行為能力者の相手方の立場を考慮した制度がいくつか存在します。

制限行為能力者の相手方の催告権

制限行為能力者の相手方は、制限行為能力者が行為能力者になった後はその者に、制限行為能力者が行為能力者にならない間はその法定代理人、又は保佐人、又は補助人に対して1カ月以上の期間を定めて、取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。

また、行為をした被保佐人、同意を要する旨の審判を受けた被補助人に対しては1カ月以上の期間を定めて保佐人または補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができます。

そして、その期間内に制限行為能力者側から「追認する」と確答があれば法律行為は有効なものとして確定し、「取消す」と確答があれば法律行為は最初から無効であったとされます。

制限行為能力者側から「追認する」や「取消す」といった確答があれば、その確答通りになりますが、問題は確答が無かった場合です。

制限行為能力者側から確答が無かった場合には、相手方の催告が誰に対してされたものだったのかによって扱いが異なります。

(1)行為能力者になった本人、法定代理人、保佐人、補助人、に対して催告をしていた場合

確答がなければ追認をしたものとみなされます。

(2)被保佐人、同意を要する旨の審判を受けた被補助人に対して催告をしていた場合

確答が無ければ取り消したものとみなされます。

注意

未成年者や成年被後見人に対して催告をしていた場合は何の効力も生じません。これは、未成年者や成年被後見人には意思表示の受領能力がないためです。

大雑把にいえば、催告を受けた者が単独で有効に追認をする事が出来る者なら追認したものとみなされ、そうでないなら取消したものとみなされると覚えましょう。

制限行為能力者の詐術

制限行為能力者が、詐術(騙す様な行為)を用いて、相手方に自己が行為能力者であると信じさせた場合には、その行為を取消すことが出来なくなります。また、制限行為能力者であることは認めていても、保護者の同意を得たと信じさせた様な場合にも取消すことができなくなります。

制限行為能力者制度は、詐術を用いて相手方を騙すような者を保護するための制度ではないということです。

法定追認

追認をすることができる時以後に取消すことができる行為について下記の事実があったときは、追認ではない旨の異議をとどめていない限り、法律上当然に追認をしたものとみなされ、取消すことができなくなります(法定追認といいます)。

(1)全部又は一部の履行

(2)履行の請求

(3)更改

(4)担保の供与

(5)取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡

(6)強制執行

取消権の期間の制限

取消権は、追認をすることができる時から5年または行為の時から20年を経過すると消滅し、取消すことが出来なくなります。

「追認をすることができる時」とは、未成年者が成年に達した時や制限行為能力者が行為能力を回復した時のことを指しています。




スポンサーリンク